【連載・第3話】歴史の陰に咲いた言葉たち|上杉鷹山「国は私物にあらず」伝国の辞

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【連載】歴史の陰に咲いた言葉たち 第3話

「国家は先祖より子孫へ伝え候国家にして、
我が私すべき物にはこれ無く候」

── 上杉鷹山(うえすぎ ようざん) 伝国の辞 第一条

目次

この人を知っていますか?

上杉鷹山の「伝国の辞」をご存じだろうか。「為せば成る」という言葉を聞いたことがある人は多いが、その作者が誰かを即座に答えられる人は、意外と少ない。

上杉鷹山(1751〜1822年)。江戸時代中期の大名、出羽国米沢藩9代藩主。上杉謙信の名は誰もが知っているが、鷹山の名を教科書で学んだ記憶はほとんどの人にないだろう。しかしケネディ大統領が「最も尊敬する日本人は誰か」と問われて真っ先にこの名を挙げたという逸話が残っている。

鷹山が藩主に就任したとき、米沢藩は財政破綻寸前という深刻な危機にあった。借金は20万両以上。前藩主は藩領を幕府へ返上して領民救済を公儀に委ねようと真剣に考えるほどの状態だった。

17歳で藩主となった鷹山はまず自らの生活費を1500両から209両に削減し、絹の着物を木綿に替えた。食事は一汁一菜。奥女中は50人から9人に。藩主自らが率先して倹約する姿は、家臣と領民の心を動かした。

言葉の背景

冒頭の言葉は、鷹山が35歳で家督を次の藩主に譲る際に手渡した「伝国の辞」三ヶ条の第一条だ。全文はこうなっている。

一、国家は先祖より子孫へ伝え候国家にして、我が私すべき物にはこれ無く候

一、人民は国家に属したる人民にして、我が私すべき物にはこれ無く候

一、国家人民のために立たる君にして、君のために立たる国家人民にはこれ無く候

現代語に訳せばこうなる。「国は自分の私物ではない。民も自分の私物ではない。君主は国と民のために存在するのであって、国と民が君主のために存在するのではない」。

江戸時代に書かれたとは思えない。むしろ現代の民主主義の根幹に流れる思想そのものだ。ケネディ大統領もクリントン大統領も、この鷹山の政治哲学に深く共鳴したとされている。

鷹山の改革は倹約だけにとどまらなかった。漆・桑・楮の植樹を命じ養蚕業と織物業を育成。灌漑用水路の整備や荒地の開墾を進め、米沢織は全国的なブランドとなった。さらに上書箱を設けて藩士だけでなく農民や町人からも意見を募り、民の声を政治に生かした。

そして、鷹山の次の代に、途方もない借金が完済された。鷹山自身はその結果を見届けることなく72歳で世を去ったが、彼が蒔いた種は確かに実を結んでいた。

「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」。この言葉の重さは、それを言った人間が実際に「為し続けた」人物だったからこそ、200年を超えた今も色褪せない。

次回・第4話 時代と国を問わず、次回は西洋の「名わき役」へ。

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